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因習ノ噺

 君達は座敷童を知っているだろうか。
 赤面垂髪の5,6歳の小童の姿をした妖怪である。彼らはたいてい、間引きや飢饉で死んだ子供と言われているが、人を恨みはせず寧ろ見た者に幸せを与えるとも言われている。
 そして私、真壁一郎が住むこの村にも座敷童の伝承が在った。寧ろ、座敷童の伝説がこの村を支えていた。たとえ飢饉になろうとも、彼らが私たちを救うとこの村の人間は信じ込んでいるのである。
 だが、最近はその信仰も薄れつつあった。いや、老人たちは未だ熱狂的に信じては居るのだが……。若い男女は殆ど彼らの存在を信じようとしない。ここ1ヵ月ばかり飢饉がこの村を少しずつ蝕んでいるからであった。
 日照りが続き、雨が降らない。
 其れが故に、作物が取れず私たちは飢えていく。
 勿論、誰の所為であるはずはないのだ。だが、老人は言う。座敷童の恩恵が足りぬのだと。それを受けるように若い男女も言う。座敷童などが居るなら此れを救って見せろ、と。
 だが無情にも、座敷童は私たちを救おうとはしなかった。乾きは続き、作物は取れない。
 そして、とうとう人々は狂い始めた。もし座敷童が居ないのならば、新しく座敷童を作ればよい。そうすれば彼らこそが私たちを助けてくれるだろう――と、叫び始めた。
 そう、つまり彼らは、幼子を殺め新たな座敷童を作ろうとしているのである。

  ***

 夢を見た。
 冷たく暗い場所に私は一人立ちつくしていた。どこからか赤子の泣き声が聞こえてくる。どこにいるのだろうか、と探し歩こうとした刹那、足下に赤子が転がっていた。この顔は、そうだ、一昨日ばかりか前に毅郎の家で生まれた赤子だったか。何故その子が私の夢にいるのかはわからなかったが、ひとまずは拾い上げようとした。だが、驚く事に――とはいえ夢だから驚かなくてもいいのだが――赤子は私が拾う寸前に自立し、口を開いたのである。
「一郎、明日おれは殺される」
「ど、どういうことだ。何故私の名前を知っているのだ」
本来なら喋ろう筈もない赤子が突然そんなことを言うものだから、私は思わず狼狽してしまった。だが、赤子はお構い無しに続ける。
「おれは明日、座敷童になる為に殺されるのだ。そう父親が言っていたのを聞いた。母親は最後まで止めたらしいが、腹を三度蹴られとうとうおとなしくなった」
「ミヨさんが……」
「母親はおれを産んだばかりだったから相当つらかったろう。だからおれは母親を責める心算は無い。だが、それよりも許せぬのは父親だ。あの野郎、おれが口を利けぬのを良い事に『そうだこの子もそれが幸せだろう』とへらへらと笑いながら爺におれを渡そうとした」
 それを聞き私は心が痛くなった。毅郎は昔から自分以外のものには大切さを見出せぬ人間で、長い物には巻かれろの精神を突き通していたものだから私は相当奴が嫌いであった。やはり、今回も奴はそれを貫いたのか。赤子まで殺めようとは……。
「……今おれの事を可哀相だと思ってくれたのか」
「あ、ああ。何故分かった」
「今のおれには手に取るように分かるのだ。一郎、おまえはいい人間だなあ。おれのことを怪しむどころか、悲しんでくれるとは」
赤子が喜んだことで、私も少しばかり嬉しくなった。それがどうやら表情に出ていたのか、子も少し微笑んだ。微笑んだのだが――それも一瞬であり、すぐにまた暗い表情を見せ語り出した。
「……なぁ一郎、おれは座敷童に成る心算は無いのだ」
「確かに、そんな理由じゃあ到底成れないだろうな」
「あぁ。おれは絶対座敷童にはならない。こんな村、救ってやるものかとも思う。この村の人間はおかしいんだ。縋る物が在るのはいいだろう。だが、それに頼りすぎて己の努力を忘れている。縋り泣き喚けば何かが救ってくれると思いこんでいるんだ。おれはそんな奴ら、絶対に助けはしない」
「あぁ」
「それに、今までの座敷童たちは村の事を恨んじゃいないから村人を幸せにしてきたんだ。自分たちを殺すことに少しでも人が葛藤したから受け入れることができたんだ。それに、あいつらの死は他が生きるためだった。だから仕方がないとも言えるさ。だが、おれはどうだ。おれは村人の幸せとやらの為だけに殺されるんだ。そんなのおかしいじゃないか」
「……あぁ」
 確かにそのとおりだと思った。この赤子は名前すらつけられないまま、誰からも愛情を得られないまま死んでいくのだ――ミヨさんは抵抗したらしいから、それを愛情だと云えば愛情なのかもしれないが――それで、どうして人に幸せを与えられよう?それも、愛情に対して夢すら抱けないまま、恨み辛みを背負い死にゆくのだ。それはやはり、狂っているのではないか。
「……そろそろ、時間か」赤子がまだ歯すら生えていない歯茎で、唇をきりりと噛んだ。そして私をじっと見つめ、
「一郎。頼みがある」と云った。
「なんだ」
「おれは死にたくない。だが、一郎が目覚めたときにはおれはすでに首を捻られているだろう。だから、これだけ頼みたいのだ」
「あぁ、云ってくれ。私に出来ることなら何でもしよう」力強く云うと、赤子は未だしっかり開いてもいない目を細めた。
「……おれのことを、忘れないでくれないか。おれの云った事と、おまえが今見ているこの夢を、おまえの記憶の中に留めていてくれ。そうすればせめて、おれも成仏は出来るだろうから」
「当たり前じゃあないか!私が忘れるとでも思うのか!」
気付けば私は大声で怒鳴り散らしていた。それほど激昂していたのだろうと思う。
 何故、こんな赤子がこんな事をを云い遺さねばならぬのか。
 何故、こんな赤子が未来に絶望せねばならぬのか。
 よく考えずともおかしいじゃあないか。産まれたばかりの赤子が、未来に希望が持てないなど、狂気の沙汰だ。そんな村ならば、私は幸せなど来なくても良い。
 そう考えながらきりりと唇を噛んでいると、赤子がふと呟いた。
「そろそろ、朝だ」
「……助けられなくて、すまない」
「どうせどうしようもないのだ。一郎が謝る必要はないぞ」
それから、微笑んでいるのやら泣いているのやらよく分からない顔を見せて、
「……ありがとう、一郎」と云った。
 そして、そこで私の意識は暗溶した。

  ***

 目を開くと陽光がきらきら輝き私の狭い家の中を暖めていた。
 ふと、昨日の夢を思い出す。あの夢は一体何だったのであろう。私が勝手に創りだした妄想なのだろうか?だが、あの赤子の言葉は、あの視線は……どう考えても、夢とは思えない。
 服を着替え、ばたばたと家から駆け出す。向かう先は勿論、毅郎の家である。どうか、あれが夢のままで在って欲しい――
 だが、毅郎の家に辿り着いた私が見たのは、毅郎とミヨさんの子が首を捻られ、新たなる「座敷童」として亡骸を祀られている所であった。

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

理不尽

 「いや、僕はね君とつきあいたいから好きだって言ってるわけじゃあなくて、君が好きだから好きだと言ってるわけですよ。これ重要ね。わかる?OK?」

「うん、わかるけど……好きって言われて、じゃあわたしは何をすればいいの?」

「適当に聞き流してくれるのがベストかな?反応する余裕があるならしてください。全力で拒むとか突き飛ばして逃げるとかわたしも好きだよと言ってからすぐに嘘だよと言ってみるとか」

「なんできみはそんなにネガティブなの……うん、つまり反応すればいいんだよね?」

「まぁそういうことですよね。いや別に反応しなくてもいいですけど。ほら僕童貞ですし正直キモいって言われて終わるのが当たり前だと思ってますし、だからつきあいたいとか言わないわけですけど」

「すてきな考え方だね」

「ありがとうございます。ではもう一度言わせてもらいますが僕は君が好きです」

「キモい」


















「まぁなんとなくわかってましたけどそんなハッキリきっぱり言わなくてもいいんじゃあないですかあなた。漫画の主人公じゃああるまいし」

「だってそう言ってもいいって言ってたから…どう反応すればいいのか正直よくわからないし」

「ああ、そんなことですか。正直なことを言えばいいんですよ」

「正直に……?うん、わかった」

「ではもう一度……僕はあなたが好きです」

「キモい」
佐々木 | 小ネタ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

ハイカラな服を纏い高らかに笑う墓前

 
前々から大嫌いでいつも殺してやりたいと思っていたあの男が死んだと聞いて慌てて墓をまいることにした。もちろんその死を悼むわけじゃあなくて、ただあいつが死んだという事実を確かめ笑ってやるためだ。そんな理由だったから喪服は着ないで寧ろ派手な服を着てやった(それはきっと、葬式や何かに着て行ったらきっと遺族に刺されるような服だ)

そして今、目の前にあるのは奴の名が刻まれた灰色の墓石で。あたしの身長より少しだけ低くなったソレはあんまりにも無様でもうその時点であたしは顔がにやけていた。たぶん、傍から見たら恋人を失った悲しさで狂ってしまった女か何かに見えていたと思う。だって実際全然知らない人に「……だいじょうぶですか?」とか尋ねられたし。うん、まあ確かにあたしはちょっとおかしいのかもしれないけど少なくともこいつが死んだ悲しさで狂うとかそういうんじゃあないから少しだけしおらしく「大丈夫です」と答えておいた。名も知らぬその人はあたしを憐れむような目で見て「……がんばってくださいね」と言って去って行った。人を見る目が全くないやつだ。

さて大嫌いだったやつの墓を前にして悲しむなんて言うのはよっぽどの馬鹿がすることで、あたしはとりあえずその墓を撫でてみた。冷たい。あたしより背が高かったあの男はあたしよりだいぶちいさくなってここに寝ている。なんと、無様。本当なら蹴ってやりたかったけれどとりあえず遺族に失礼だとあたしの本当にちょっとだけある良心がとめたからそれ以上墓に触れるのはやめておいた。そして、その代りにあたしは奴の墓の前で笑ってやった。

「……あっははははははははははははははははははははは!本当に死んでやんの!ばっかみたい!」

笑いが止まらない。生前あたしにあれだけのことをしたあいつは今ここで無力にそして無様に埋まっているのだ。勝ったのは、あたし。負けたのは、あいつ。なんといい気味なんだろう!
あんまりにもおかしくてうれしくて思わず地面にしゃがみ込んで笑ってしまった。あははははは、とばかみたいな笑い声が溢れて溢れて止まらない。止める気もない。そうやってかなり長いこと笑ったところで、あたしはふと違和感に気づいた。

「……なにこれ」

頬をなまぬるい液体が伝う。雨かと思ったけど空はよく晴れていて(きっと空もあいつの死を祝福してるんだ!)雨など降るはずもなかった。慌てて眼に指を持っていくと、やっぱり流れているのはそこからで。つまりこれは

「……なんで、ないてんの。あたし」

あたしが泣いているということに他ならなかった。びっくりして涙をぬぐう。なんで死を祝福しにきて悼んで泣いてるんだ。ばかじゃあないの?あたしは、あいつのこと大嫌いだったのに。殺してやりたかったのに。どうして泣いてるんだ。いろんなことが頭のなかをぐるぐるする。さっきまではあいつの最悪なところしか思い出さなかったのに、なんでかしらないけれど今はあいつのちょっとだけあったいいところだけを思い出していた。そんな本当にかすかな思い出で感傷に浸るなんてばかみたいだ。なのに、あたしは今それを止められない。

「ば、かじゃないの……」

自分に向けて、とあいつに向けて。二重の意味を持たせるには最適な言葉を絞り出すように呟いてあたしはうなだれた。口元はまだ笑っているという感覚があるのに、ただ涙が止まらない。あたしは正真正銘の、ばかだ。

ああ、もう、そうだ。認めればいいんだろう!そうさ、なんだかんだであたしはきっと、結構あいつがすきだったのかもしれなかった。大嫌いで殺してやりたかったけれど、そのくせあたしは大好きであたしを見てほしかったのかもしれない。今となってはよくわかんないけど、きっとそうだ。あたしは、ばかだ。そして死んでしまったあいつもばかだ。墓の前で項垂れながら泣いて笑っているあたしは、きっと本当の気狂いに見えるのだろうと思った。ああ、そうだ。あたしは本当の気狂いだ。そんなことは、知っている。

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お題元:ジーザス!様
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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