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アンハッピー・ニューイヤー

 「大体なんで毎年毎年明けましておめでとうだのハッピーニューイヤーなどと言わなければならないのですか。理不尽です」

年越し蕎麦を啜りながら 彼女 突然そんなことを言って怒り始めました。
いやいや だって新しい年の初めですよ? 祝いたくもなるじゃないですか。

「何を言ってるんです。そもそも ハッピーニューイヤーとか言ったところで その年がいい一年になったことなんて本当にありましたか? 本当に幸せでしたか?」

うっ そ それはまあ 確かに微妙な一年の方が多かったですけど。

「ほら そうでしょう。大体一年での幸福と不幸の比率なんてよくて4:6 悪ければ2:8ですよ? それなのに私達は毎年ハッピーニューイヤーだの明けましておめでとうだの 言っていて空しくないですか」

ま まあ確かに空しいかもしれませんが いいじゃないですか 一年の初めくらい希望を持っても。

「そうやって在りもしない希望に飼い殺されたまま また無駄な一年を過ごすんですか?」

ど どうしたんですか 今日は。何だって そんなに機嫌が悪いんですか。僕が何かしましたか?

「いえ 坂上さんは別に何もしてないですけど。ただムカついたんです。このまま今年もくだらない事を言ってくだらない一年を過ごすんだろうなあって思ったら」

そういうと 彼女 右手に持った箸を折れるんじゃないかってくらい強く丼に叩きつけ すっくと立ち上がりました。

「よし 決めた。私 今年はハッピーニューイヤーじゃなくて アンハッピーニューイヤーって言います! それで年が明けて浮かれている人を不幸のどんぞこに突き落としてやるのです。始まりが最悪だったら 何が起きてもまあ今年はこんなもんか って思えますもんね!」

そ そうですか。どうぞお好きに。

謎のポジティブは 結構な迫力を持っていて 僕が冷や汗を流しながら答えると 彼女 満足そうに肯いて座り また蕎麦を啜り始めました。ああもう こうして黙っていたら可愛いのに。黒いさらさらした長髪とか 透き通るような白い肌とか 切れ長の釣り目とか。あの白魚のような指がベッドの上ではあんなことに……。

とか くだらないことを考えていたら それを察したのか彼女 「何ですか 坂上さんいやらしいこと考えてるんですか。……触ったら怒りますよ」とかわいらしいことを言ってきました。ま お楽しみは後で ですね。

ちらりと時計を見遣れば 時刻は23時48分。あと12分で年明け ですかあ。今年も呆気なかったですね。

「あ 本当ですね。12分かあ。早く蕎麦食べなきゃ」

ちょっと食べるの遅くないですか?

「そんなことないですよう」

そう苦笑すると 彼女 慌てて蕎麦を啜り始めました。



そして 気づけば10分も経ち 今年も残すところあと2分。
どうにかギリギリ蕎麦を啜り終えた彼女は 安心したように丼を下げ 台所で何か少しごそごそとやった後に そっと僕の傍に戻ってきて ちょこんと座りこみました。

「あっとにっふんー」

そんな歌を口ずさむ彼女がかわいらしくて 思わず撫でようとしたところで今年も残り1分。
第九の荘厳なメロディがテレビから流れる中 僕 ぼうっと彼女の事を眺めていました。そして。

「ごー よん さん に いち……」

気の抜けるような彼女の声が 2009年最後のカウントを紡ぎ そして あっさりと年が明けました。
先程の会話 すっかり忘れた僕が「あけまして おめでとう」と彼女に言おうとした瞬間 何故か喉元に鈍い衝撃。

その後走った鋭い痛みに 何事かと彼女を見てみれば 彼女の左手には鈍く煌めく包丁。その切先は 僕の喉に吸い込まれておりました。

「というわけで坂上さん アンハッピーニュ−イヤー!」

え そういうことかよ。というか 今年もまた殺人オチかよ。年初めだっていうのに そろそろマンネリ化してきたぞ。

抗議しようにも穴の開いた僕の喉 言葉の代わりにプヒュープヒューと空気を空しく吐き出すだけで。
結局 そのまま喉の痛みに意識が遠くなり 僕は倒れたのでした。



……で その後。
手始めに僕を刺した彼女 そのまま外に出て 「アンハッピーニューイヤー!」と連呼しながら手当たり次第に初詣に来ていた人達とかを刺殺して 見事に新年の幸福ムードを不幸に塗り替えたそうな。

でもその代わり それが今年の大災厄となったのか 僕の住む町のあたりだけ 結構2010年は可もなく不可もなく過ごせたようです。


ん。あ 僕ですか。
あのあと 一度意識が戻りまして でも致命傷だし さんざ悶え苦しみまして。

まあ結果的に 2010年は5分ほどしか堪能出来ず 大災厄に巻き込まれた被害者Aみたいな感じになったんですが 彼女が幸せならそれで構いません。ねえ?

というわけで 明けまして残念でした。
今年もよろしくお願いいたします。

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

メリークリスマス

 街で男が散弾銃を乱射した。いや、その散弾のほぼ全てが、街を歩いていた不幸なカップル達に当たったのだから、厳密には乱射したとは言えないかもしれない。
何はともあれ男は哀れにも逃げ遅れた25組目、50人の男女を殺戮している所で警察に逮捕された。




取り調べ室で、疲れた顔をした刑事は全く悪びれる様子のない男に聞いた。

「……なぜ、こんなことをしたんだ」

男は答えた。

「いえ、ね。山で趣味の猟をしていただけなんですよ。でも趣味というのは目を曇らせるものでして、なんというか、えぇ、山で白い牝鹿に会いましてね。まぁアルビノという奴なんでしょうが、とかく私にはその牝鹿が神様に見えたんです。はい。で、夢中になって追い掛けてたらいつの間にか街に居まして、気づかずに撃ったら流れ弾がね、ゴミど……いやいや、恋人同士の皆様にね、うっかりヒットしてしまいまして。だからこれは殺人じゃなくて事故ですよ、事故。悲しい事故です。あぁ悲しい〜なんて悲しいのか〜」

先程から、ずっとこの調子だ。証言などする気もないのだろう。それとも、本当に動機などないのか。いや、人の行動には必ず理由がある。刑事は歯噛みした。
本来ならば今日は、恋人であり婚約者であるはずの女・智子とのデートを楽しむ筈だったのに。だが、それどころではない。部下まで死んでいるのだ。
初めての恋人を溺愛している刑事は、苛立ちを誤魔化すように咳をすると、男をぐっと睨んだ。はやく、動機を聞き出さねば。だが、それよりも先に部下を失った悔恨が鎌首をもたげた。

「……そうか、事故だと言いたいのか。ピンポイントでカップルだけ狙って、それでも事故だと……。いいか、被害者の中にはなぁっ、俺の部下が居たんだ。少し空回りしがちな奴だったが、いいやつでっ」

「刑事さん」

激昂しかけた刑事を、男の平たい声が止めた。

「……なんだ。何かいう気になったか」

「刑事さんには恋人がいらっしゃいますか」

「何をっ」

「いやあの、それさえ教えて頂ければ正直に自分の罪を認めますので。恋人は、いらっしゃいますか」

何故か、男の乾いた声色に刑事は逆らえなかった。まるで催眠術でもかけられたかのように、刑事はゆっくり口を開いた。

「……いる」

「あぁ、じゃあ幾つかお聞きしてよろしいですか。彼女の身長は157センチくらい?」

「あ、ああ」

「髪は茶色に近い黒で、肌は透き通るような白?」

「ああ」

「好きになった男の名前の、例えばまさるだったらまーくんと呼ぶような癖は?」

「ある」

「そうですかぁ」

幾つかの質問に答え終わってから、刑事ははっと口をつぐむ。自分は何を答えているのだ。こちらが聞く側だと言うのに。

そして、それから刑事は僅かながらの恐怖を抱いた。一体、なぜ、この男は自分の恋人をまるで見てきたように知っているのか……。

が、すぐにその恐怖を振り払い、刑事は口を開いた。

「……質問には答えたぞ。次はお前が」

「あの……刑事さん」

「なんだ」

刑事の言葉は、またも男に遮られる。若干の苛立ちを覚えながらも、刑事はばつの悪そうな顔をした男を促した。

「いやぁ、言いにくいんですが」

「なんだと聞いている」

「彼女の名前って、智子さんですか?」

「……なぜ、それを」

「あぁ、やっぱり……。あの、お伝えするのが心苦しいのですが、智子さん浮気してましたよ。あなた以外の男と、腕を組んで歩いてました」

「なっ、そんな筈はっ」

男の言葉に、刑事は自らの世界が崩れてゆくような気がした。しかし刑事はすぐに自分に言い聞かせる。そんな筈はない、お互いに付き合う経験はこれが初めてなのだ。それに、あの今時にしては珍しい純朴さを持った女が、浮気をする筈は。

だが、そのささやかな自信はやたらと信憑性のある男の声に崩れ去った。

「『智子ぉ、彼氏はいいのかよ?』って聞かれて彼女言ってましたよ。『やっぱ刑事とかださいわよね』って。いやぁ、新しい男の腕に縋りつく智子さんは幸せそうでしたな。きっとこのあとセックスするんだろうなぁと思いましたよ。『どうだっあいつのよりずっと良いだろっ』『あぁっあなたのが一番好きいっ』とかやるんだろうなぁと思ったらもう憎しみしか芽生えませんでしたね。それくらいカップルでした」

「そ……そんな、そんな筈はない。智子とは、結婚も考えてっ」

さっきまでとは一転し、薄い笑みを浮かべた男に刑事は掴みかからんばかりの勢いで叫ぶ。飛び散って手についた唾液の珠を嫌そうに机に擦り付けながら、男は止めの一言を放った。

「あぁ……二人とも、私の前で結婚の約束を交わしましたよ。接吻までしちゃって、絡み合う舌が見えてましたからねえ」

「嘘だああああっ」

刑事が、発狂したように叫ぶ。飛び散る唾液を今度はしっかり避け、男は笑った。

「あぁ、でも大丈夫ですよ」

「嘘だ……嘘だ……智子が……」

「たぶん彼女ら、散弾銃の餌になりましたから」

「智子おおおおおっ」

先程よりも更に平坦になった男の言葉に、刑事は咆哮し掴みかかった。黒い瞳から涙がボタボタと溢れている。刑事は正気をなくしていた。
そんな刑事に肩をがくがくと揺さぶられながら、男はふと気づいたように虚空を見た。

「あっ、白い牝鹿だ。神様だ。ほりゃっ」

「あぎぇっ」

軽い声と共に男は指を刑事の眼窩に突っ込む。奇妙な悲鳴をあげて、刑事は目を押さえながら倒れ込んだ。

「うぁぁあ、智子、智子おおっ」

「いやあ純愛ですねえ。素晴らしい。こんな素敵な恋人を裏切るわけがありませんな。刑事さん、刑事さーん。さっきのはクリスマスジョークですようっ」

にやけたまま、男は目を押さえたまま床でもがく刑事に言う。だが、それは間違いなく聞こえていないだろう。それを気に止める様子もなく、男は伸びをした。


「いやぁ、素晴らしいクリスマスでした。純愛は見られるし、猟も上手く行くし。……おや」

爽やかに独り言を呟く男の目が、何もない筈の空間に何かを捉えた。それは、ライトの光を受け、短い毛並みを大理石のように輝かせる、白い牝鹿。

本来ならばあり得ない筈のその生き物に、しかし男は笑顔で会釈した。

「メリークリスマス」

牝鹿も、小さく会釈を返した。

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

遺す

 
「例え何も形あるものを遺せなかったとしても ただ僕が居たと云うこと 僕が生きていたと云うことを誰かが いや 君が憶えていてくれるなら 僕の生きた意味も多少は在ったと云うものですよ」

彼 小さく微笑んでそう云うと 僕の頬 痩せこけた指で そっと触れました。

「さよなら は云いたく無いから 君に ありがとうと云って去ろうと思う。君と居られて 楽しかったよ。ありがとう ありがとう」

か細い声。彼の命がゆらり消えそうなのをそこに感じながら 僕 ただ彼に 同じ五文字を呟きました。

色々なことが在ったけれど やっぱり君と居られた時間は尊かったよ。此方こそ ありがとう。

「はは 最期に泣かせる事を 云うなあ。……ああ ありがとう。どうか 僕を 忘れないでくれよ。あり がとう」

切れ切れの言葉 紡ぎ終えて ひゅうっと息を吸うと それを吐く事なく 彼 すっと目を閉じて。
ああ もう逝ってしまったのかい。訊きながら触れた彼の左胸 もう鼓動はしていませんでした。

とうとう 逝ってしまった。

覚悟はしていても 事実として認識すると 何故だか彼との様々な記憶 生きている筈の僕に 走馬灯の如く甦り。

いつも 沢山の人の不満を受け止めていた彼。いつも 笑いながら無茶とも思える様な誰かの願いを叶えていた彼。僕もまた 彼に救われた一人です。
彼は 善意の塊のような男でした。なんで こんな善良な奴が あっさりと病で死なないといけなかったのだろう 記憶と共にそう思うと 涙まで止まりません。

『……もし我が儘を云うなら 僕は死にたくないなあ。いや 不老不死になりたい訳じゃない。肉体が死んだあと 誰かの心の中でひっそりと生きたいよ。うん 僕を憶えていて貰いたいなあ。粛々とさ 少しだけでいいから』

そんなことを言って笑った顔も 勿論憶えていました。

彼の最期の言葉 そしてその記憶 色々なことを僕は確かに握っています。ともすれば 僕は彼の願いを叶えられるのでしょう。

涙を拭い 彼の安らかな死に顔を一瞥。安心してくれよ 僕は 君の事を忘れないからな。


そんなこと思いながら 彼の頬 触れようとした刹那。不意に大きく大地が揺らいで あっと声をあげる間もなく罅が入った壁が崩れ 一際大きな破片が僕の頭を砕き 彼の記憶はおろか 彼の身体も僕の身体も 綺麗に裂けた地面の下 呑み込んだ。


そしてそこには もう何もない。

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

 夜 二時ごろ。
明日は早いし 早く眠ろうと思いながら 僕 温い蒲団の中でぼんやりしていました。
瞼は重く 思考もうつつ。ああ もう少しで夢の世界だな そう思い 眠りに身を委ねようとしたら ですよ。なにやら ごほごほと咳の音が聞こえて 僕 うっかり目を醒ましてしまいました。
このおっさんくさい咳 間違いなく 父さんだなぁ。全く 咳をするくらいなら煙草なんて止めりゃいい。言っても きかないけど。

眠りを妨げられ 若干の苛立ちを覚えながら 僕 耳栓を入れ直し 部屋の扉も再度閉め また蒲団に潜って眠ろうと うわ また咳してるよ。もう 煩いな。大体 何で一階の音が二階まで聞こえるんだ。おかしいだろ 欠陥住宅め。うわ ちょっと咳し過ぎだよ ヘビースモーカーめ。


結局 何度耳栓を入れ直そうと扉を閉めようと 階下の父の咳は聞こえるので 仕方なく 僕 真冬だというのに扇風機をつけて (ちなみにこの扇風機 夏に僕の彼女を巻き込みミンチにした曰く付きの品であります) 扇風機が回る音で自分を誤魔化しながら寝た次第であります。



で 次の日。


結局あまり眠れず 眠い目を擦りながら降りてみれば 珍しく起きている父の姿。よし 昨日の文句を言ってやろう。

父さん 父さん。あの 何とも云い難いんですが 咳の音量 もう少し下げてくれないかなあ。僕 昨日 あなたの咳が煩くて眠れなかった。耳栓して ついでに扇風機までつけたんですよ。ほら 見てくださいこの隈。酷いでしょう。


「お前の顔がひどいのはいつものことだ 馬鹿息子。大体俺は昨日 咳なんて全然してないぞ。十二時には下で寝てたしなあ。聞こえたの 何時だよ」

二時ですよ。……えっ じゃあ僕が聞いた咳って何ですか。

「幽霊じゃないのか」

幽霊なんていませんよ。
それより ほんとに十二時には寝てたんですか。信じ難いなあ。

「本当だ。ほら この2ショットチャットのログを見てみろ。十二時で止まってるだろ」

あ 本当だ。でもそれ 誇れませんよ。これ 母さんに云っておきますね。

「いや それは止めろ。まあいい 父さん ちょっとユミちゃんとデート……いや パチンコに行ってくるから お前も二度寝するなよ」

云い直した後も前も最低です 父さん。母さんに全部……あ 行きやがった。あの駄目親父め。あいつの息子で居ることが 本当に恥ずかしい。


しかし 父さんじゃないとすれば あの咳は誰だったんだろう。隣の家だろうか 聞こえないこともないけど 流石に耳栓してりゃ聞こえないからなあ。ああ 気になる。

「ごほごほ」

そう こんな感じのおっさんくさい咳。
幽霊だったら とんだ迷惑だよな。まだ 何も云わないで見られている方が マシだ。

「ごほっ……うぇえ」

いやしかし 何で咳の音って不快なんだろう。こんな音 いらないよ。早く 音抜きの技術が開発されりゃいいのに。

「ごほっ」

ああしかしさっきから咳が煩いなあ。全く これじゃ昨日とおな……あれ?

おかしいな さっき 父は出掛けた筈なのに。そして今 家には僕しか居ない筈なのに。なんで 咳の音がしてるんだ。

「ごほっごほっ」

止まない咳の音の方 押し入れに向けて 恐る 恐る 振り返る。なにもない筈の其処 暗闇が広がっている筈の 押し入れの扉の隙間 何故か 赤く血走った目と ぽってりと太った 誰かの指 覗いて。
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

お断り申し上げます

 > 最後のミクシィ日記を審査させていただいた結果、あなたは2012年12月21日「ミクの方舟」に乗ることはできないと判断されました。
> まだ運命の日までは時間があります。改めて最後のミクシィ日記をエントリーしてみてください。
> 1人でも多くのミクシィユーザーと共に、2012年12月21日の危機を乗り越えたいと思います。
>
> なお、最後のミクシィ日記の審査は1日に1回のみさせていただきますので、ご了承ください。
>
> ミクの方舟開発委員会
> http://m.mixi.jp/pr_2012.pl?

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「ほとんど本心の選択をした上で生成された日記が不受理だったそうで、どうやら私はmixiにも生きることを拒否されてしまったようです。こうなったらもう、2012年が実現しないよう先に人類を滅ぼすしか無い。いやむしろ私だ、私が2012年の脅威だったんだ。私がこの世界をあと三年で滅ぼすのだ。やったー、今から身体を鍛えて最強の脅威になるぞ。わーいわーい」

「そうですか、それは良かったですね。でも実現したら困るので死ねっ」

「あぎゃっ」


こうして2012年問題は解決した。
佐々木 | 小ネタ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

うばいうばわれ

かんかん、と金属製の階段を登る音でリズムをとっていれば、いつの間にか屋上に辿り着いていた。
赤錆が僅かに浮き始めた重い扉を、力を込めて開ける。開けた世界は、初めて見るような綺麗な晴天と陽光に覆われていて、なんだか凄く素敵だった。

粉っぽいコンクリートの上を歩いて、あまり高くない緑色のフェンスに指を掛ける。かしゃんと軽い音がして、塗料が指にこびりつく。その色に今年の文化祭を思い出して、懐かしさを覚えた。
あの時は色々なものが輝いて見えたのに、いつの間にかその輝きを忘れた。当然と言えば当然だったのだろう、と思う。だって、私は。

感傷に僅か浸り、それからすぐに気を取り直してフェンスを登る。随分と老朽化しているフェンスだったから、登る前に崩れて落ちたらどうしようかと思った。でもその思いをきっと神様は酌んでくれたんだろう。何事もなく、私はフェンスの外へと到着した。

障害物なしに見渡す街並みは綺麗だった。青い空を突っ切るように飛ぶ鳥とか、浮かぶ雲とか、そしてそれらを背にして聳え立つ灰色のビルですら――何もかも美しく思える。
どうして人は、喪う直前になってから全ての美しさを知るのだろう。今更気づいても、もう遅いと言うのに――。


後ろ手に掴んでいたフェンスを離す。一瞬よろめいて、それでも私はそこに立つ。
14階建ての廃ビルの上。飛び降りるのはまだ、今じゃない。腕時計を見る。17時56分。あと、4分。

視線を腕時計から下に移す。雨に濡れて、灰色から黒に近づいた道路がある。誰もいない。あと3分。

ああ、思い返してみれば結構良い人生だったと思う。悪くはなかった。辛すぎもしないのにやたらと幸せだった。
でも、その幸せに甘えすぎた。溺れすぎた。私は傲慢だった。あと2分。

幸せになるためなら他人の不幸もいとわなかった。後輩先輩友達先生両親、関わった全ての人を私は道具として見ていた。私が幸せであるための、私が満足するための玩具であり、私が不幸にならないための駒だった。酷いことをした。酷いことを言った。心配と無償の愛は特に素晴らしい道具だった。終わったあとで後悔して自己嫌悪して、同じことを繰り返した。あと1分。

その日々が「あの人」のせいで崩壊して、少しだけ安堵した。もう繰り返さないと心から思った。同時に、自分が独りと知った。当たり前だと解った。好かれている筈がなかった。納得した。でも。


「……やっぱり、ひとりは寂しいよ」


掠れた喉から呟きが洩れる。


 結局、最後の最後。壊れかけた自分が優先したのはエゴだった。取り返したかった。夢を見ていたかった。幻想の中で生きていければよかった。その日々は奴が奪ったのだと嘆いた。返してと喚いた。帰って来ないと知った。
だから、帰らないものを奪われたなら同じように帰らないものを奪おうと思った。

――18時ぴったり。

薄暗くなった道路に目を凝らせば、私に呼び出されたことに訝しげな顔をしているであろうあいつがそこに居た。あぁ、良かった。ちゃんと定時に来てくれた。時間を守ると言うのは素晴らしいことだ。

さぁ、いこう。大事なものを返してもらいに――。


ひゅうっと強く息を吸い込むと、掴み直していたフェンスをまた離す。
そして私は、奴の元を目掛けて飛んだ。

徐々に近づく地面で、呆気に取られたように座り込む奴の表情は最期に見るものに相応しいと思えた。

滑稽なほど口を開けて、奴は私を見る。視る。観る。その頭上に向けて飛び込みながら、緩やかに私の意識は暗溶する。

さいご、意識が消える刹那。
ぐしゃりと骨肉が潰れまざりあう音がした、ような気がした。

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

死因:扇風機

 「なに馬鹿なこと言ってるのよ」

夏の夜。クーラーは壊れて 頼れるのは扇風機と団扇だけになった彼女に 電話をしました。

ラフレンツェや 忘れてはいけないよと 何処かの魔女のように僕が彼女に電話で諭したのは 扇風機をつけっぱなしで寝ると死にますよという 至って簡潔な内容。

そしたら 返ってきた言葉が最初のアレでありまして。
多少苛立った様子の彼女 多分現在時刻が夜中の一時と言うのが最たる理由だと思われますが とにかく厳しい口調で 僕に云います。

「扇風機つけっぱなしで寝たからって 死ぬわけないじゃない」

いや それが死ぬんですよ。

「死にません。あなた いつまで迷信を信じてるの?そもそも扇風機がよくないって言うのは 風のせいで水分が蒸発して水分不足になるからで タイマーをちゃんと設定すれば問題はないの」

いや そうじゃなくて。

「そうじゃないなら何なのよ。まぁいいわ 私はもう寝るから。じゃ」

あ ちょっと待っ

ガチャン ツーツー


結局 話を聞かないまま 彼女 電話を切ってしまいまして。
ああ 彼女の言うように迷信ならばいいのですが。
でも それなら僕 電話なんてしなかった。確かに扇風機をつけっぱなしで寝ると 死ぬんですから。

彼女との最後の会話がアレなんてなぁ と若干落ち込みながら 結局 僕も眠りに落ちまして。


次の日 恐る恐る彼女のマンションに訪ねてみれば ですよ。

そこにあったのは ベッドのそばで周りっぱなしの扇風機。それと 恐らく昨夜まで彼女であっただろう 大量の肉片。

ほら だから言ったのに。


扇風機をつけっぱなしで寝ると死ぬのは 身体が冷えるせいじゃない。

気づかないまま巻き込まれて ミンチにされて死ぬから つけっぱなしにして寝てはいけないんです。


本当に夏は恐ろしいなぁと辟易しながら 僕 扇風機のスイッチをカチリと切りました。
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

いただきます

 人間が、食べたい。

随分前から、ずっとそう思っていました。勿論、到底人には言えないことなのであまり口には出さず黙っておりましたが。
あ、人ならば誰でも構わないというわけではありません。食べるのならば女性を、それも愛した女性を食べてしまいたい。出来ることならば、その白魚の様な指を先端からがりがりと噛み千切り、溢れる血を啜り骨まで咀嚼してみたい。なお、愛しているから自分に取り込みたいのか、と言われれば、大してそうでもなく。

ただ、自分の好奇心と食欲に、貪欲なだけなのです。僕と言う人間は。
ただ、見てみたいだけなのです。人の手を噛みちぎるとどの様な反応を示すのか。
ただ、味わってみたいだけなのです。人の手を租借するとどの様な味がするのか。
ただ、その好奇心をを満たしたいだけなのです。僕と言う人間は。

されど中々その欲望は叶う事はなく。
少し前、僕、ひとつ前の、女王気質な彼女に、ある日勇気を出して言ったのです。
「右目を食べさせてくれたらずっと服従しますから」
けれどその勇気も虚しく「奴隷一人作るのにあたしの片目は高すぎるわ」と一蹴されて、そこで恋も終わってしまいました。

で、今の彼女に至るわけなのですが。
前彼女とは違って、彼女の微笑みはふわふわと柔らかく、簡単に言うなら癒し系。
そんな彼女には流石に「君が食べたい」とは言い辛くて。それでも願望は捨てきれないので、二人きりでいる時は甘える振りをして、彼女の指を噛みちぎる妄想をしながら、彼女の右手の薬指をしゃぶり時折甘噛みし。それでも、実は十分満足だったりします。ほら、僕にも理性というものがきちんと備わっていて。流石に本当に食べたらヤバイと解っているから。

まぁでもたまぁに隠しきれなかった願望がひょっこり頭を出して「ああ、食べたい」などと言ってしまうこともありますが、そんなときは、アレです。
「え?ご飯、作ろうか?」などと首をかしげる彼女の頬にそっと指を滑らせ「いや、君が食べたいんだ」と甘い言葉を囁きながら、組み敷いて。実はそういうときは彼女も結構ノリ気だったりして。
大概そんな感じで、終わっているのです。大概は。

というわけで、今日も彼女の指をくわえているわけなのですが。
……なんというか、今日も……いや、いつにもまして彼女の指は美味しく感じます。
ほんのりしょっぱさが混じるのは、汗なのでしょうか。
ああ、今はこうして舐めているけれど、この指先を噛み裂いてしまいたい。
本能の赴くままに顎を動かして、歯で擂り潰して、この肉を飲み込みたい。
今日は気分が乗っているのか、やたらとそれが鮮明に想像できて。その味、その感触が、まるで本当に食べているかのように、はっきりと感じられ。
とにかく食べたくて食べたくて食べたくて、その願望は筆舌尽くしがたく。

ほぼ無心になりながら、彼女の指を舐める僕の耳を、不意に彼女の絶叫が劈いた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!もうやめて!やめて!」

何事か、と思って、彼女の指を見てみれば、ですよ。
その指先、第一関節くらいまで無くなっておりまして。
あれ、愛しい彼女の指先はどこへ行ったのだろうと思いながら、ふと咥内を舌でなぞると、僕の口の中、細切れになった肉らしきものや何か硬いものが残っていて。
それに気づいた瞬間、鼻をつんと血の匂いが突き。
泣き叫ぶ彼女と口の中の感触を確かめながら、あっと気がついた。

どうやら僕、妄想と現実の区別がつかないまま、彼女の指を食べてしまったらしい。

申し訳ないな、とかとんでもないことをしてしまった、などと思いつつ。
それでも、僕の口から出てきたのは謝罪の言葉でも何でもなく。

「……もっと、食べていいですかね」

そう言うと、僕、血のついた唇をぺろりと舐めて、弾かれたように彼女に飛びかかった。
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

墜落

 

「ねぇ、限界突破ってしたらどうなると思います?」

「何が?何の限界?」

「人間の限界的なソレをですね今日突破しようと思うんですけど。具体的には飛びたいかなと」

「え、あ、うん。行ってらっしゃい」

「いや出来ればあなたにも来てほしいなって思ってるんですけど」

「え、ちょっと無理かな」

「いやいやそんなこと言わずに。人間なんて止めちゃいましょうよ。生きてたっていいこと無いでしょ?」

「いやあるよご飯おいしいもんあったかい布団気持ちいいもん」

「そんなのまやかしですよ?すぐなくなっちゃいますよ?」

「うー、いいんだよ。思い出は残るんだから」

「あー……じゃあいいです。すいませんでした、無茶なこと言って」

「いえいえ。……で、あなたは人間やめちゃうの?」

「あ、はい。やっぱり限界突破してみたいんで」

「そっかぁ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」



そう微笑んで、次の瞬間彼は近場の窓から飛び立って。

瞬間浮遊した後、真っ逆様に墜落死。


ぐちゃり、と肉の潰れる音が聞こえたような気がしたけれど、その幻聴は直ぐに風に流れて消えていった。

とりあえず窓の下に居る肉塊と化した彼へと別れの一言。



「……いやいや、限界突破出来てないからね!」



佐々木 | 小ネタ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

0時47分、屋上にて。

 「もし私が死んだら、お願いがあるんです」


優しく、されど少し寂しそうに微笑んで、彼女は云いました。


「もしも私が死んでも、私を憶えていてください。けれど、私を思い出さないでください」

「私のことは、どうぞ記憶の奥底に沈めたままでいてください」

「あなたの中に私を遺して欲しいんです。忘れないでいてほしい。けれどそうしたら、あなたは辛い思いをするでしょうから。だから、私を思い出さないでください」


汗ばんだ額にはりつく髪を掻きあげ、何も答えられない僕に向け、更に彼女は言葉を続けます。


「……それと、私が死ねばきっとあなたには変化が訪れるでしょう」

「刹那の別離であれ、永久の別離であれ。別離と言うものは人を変えます」

「別離の中からは沢山の物が見出せる。哀しみや諦めだけではないんです。そう、本当に沢山の物が学べるはず」

「それを……うん、簡潔に言うと『成長』と呼ぶのかな」

「成長してしまうことが、変わってしまうことが。きっと辛いと思う事もあると思います。変化は他者であれど自分であれど、受け入れることは難しいから」

「けれど私が死んであなたに起こる変化が……あなたがする成長がよきものであれば、その変化を忘れないでください。私が居亡くなったことに対する哀しみは忘れてしまっても、ね?」


弱々しくもはっきりと云い切ると、彼女は腕を伸ばし、そっと僕の頬にふれました。


「……例えあなたがどれほど変わってしまっても、私はあなたを愛しています」

「だからどうか……どうか私のお願いを覚えていてください。そして、叶えてくれたらとっても幸い」

「思い出さなくなる事を、変わる事を恐れないで。大丈夫、大丈夫だから……」


浅く、荒く息を吐きながら、それでも彼女、僕を安堵させるようににっこり笑って。

「……それじゃあ、さよなら」

と、最期の呼吸と共に告げました。



――0時47分、屋上にて。
僕の指紋、べっとりついた包丁の柄を腹から生やした彼女より、呪いのような別れの言葉が僕に。

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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