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いただきます

 人間が、食べたい。

随分前から、ずっとそう思っていました。勿論、到底人には言えないことなのであまり口には出さず黙っておりましたが。
あ、人ならば誰でも構わないというわけではありません。食べるのならば女性を、それも愛した女性を食べてしまいたい。出来ることならば、その白魚の様な指を先端からがりがりと噛み千切り、溢れる血を啜り骨まで咀嚼してみたい。なお、愛しているから自分に取り込みたいのか、と言われれば、大してそうでもなく。

ただ、自分の好奇心と食欲に、貪欲なだけなのです。僕と言う人間は。
ただ、見てみたいだけなのです。人の手を噛みちぎるとどの様な反応を示すのか。
ただ、味わってみたいだけなのです。人の手を租借するとどの様な味がするのか。
ただ、その好奇心をを満たしたいだけなのです。僕と言う人間は。

されど中々その欲望は叶う事はなく。
少し前、僕、ひとつ前の、女王気質な彼女に、ある日勇気を出して言ったのです。
「右目を食べさせてくれたらずっと服従しますから」
けれどその勇気も虚しく「奴隷一人作るのにあたしの片目は高すぎるわ」と一蹴されて、そこで恋も終わってしまいました。

で、今の彼女に至るわけなのですが。
前彼女とは違って、彼女の微笑みはふわふわと柔らかく、簡単に言うなら癒し系。
そんな彼女には流石に「君が食べたい」とは言い辛くて。それでも願望は捨てきれないので、二人きりでいる時は甘える振りをして、彼女の指を噛みちぎる妄想をしながら、彼女の右手の薬指をしゃぶり時折甘噛みし。それでも、実は十分満足だったりします。ほら、僕にも理性というものがきちんと備わっていて。流石に本当に食べたらヤバイと解っているから。

まぁでもたまぁに隠しきれなかった願望がひょっこり頭を出して「ああ、食べたい」などと言ってしまうこともありますが、そんなときは、アレです。
「え?ご飯、作ろうか?」などと首をかしげる彼女の頬にそっと指を滑らせ「いや、君が食べたいんだ」と甘い言葉を囁きながら、組み敷いて。実はそういうときは彼女も結構ノリ気だったりして。
大概そんな感じで、終わっているのです。大概は。

というわけで、今日も彼女の指をくわえているわけなのですが。
……なんというか、今日も……いや、いつにもまして彼女の指は美味しく感じます。
ほんのりしょっぱさが混じるのは、汗なのでしょうか。
ああ、今はこうして舐めているけれど、この指先を噛み裂いてしまいたい。
本能の赴くままに顎を動かして、歯で擂り潰して、この肉を飲み込みたい。
今日は気分が乗っているのか、やたらとそれが鮮明に想像できて。その味、その感触が、まるで本当に食べているかのように、はっきりと感じられ。
とにかく食べたくて食べたくて食べたくて、その願望は筆舌尽くしがたく。

ほぼ無心になりながら、彼女の指を舐める僕の耳を、不意に彼女の絶叫が劈いた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!もうやめて!やめて!」

何事か、と思って、彼女の指を見てみれば、ですよ。
その指先、第一関節くらいまで無くなっておりまして。
あれ、愛しい彼女の指先はどこへ行ったのだろうと思いながら、ふと咥内を舌でなぞると、僕の口の中、細切れになった肉らしきものや何か硬いものが残っていて。
それに気づいた瞬間、鼻をつんと血の匂いが突き。
泣き叫ぶ彼女と口の中の感触を確かめながら、あっと気がついた。

どうやら僕、妄想と現実の区別がつかないまま、彼女の指を食べてしまったらしい。

申し訳ないな、とかとんでもないことをしてしまった、などと思いつつ。
それでも、僕の口から出てきたのは謝罪の言葉でも何でもなく。

「……もっと、食べていいですかね」

そう言うと、僕、血のついた唇をぺろりと舐めて、弾かれたように彼女に飛びかかった。
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

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