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夏と冬の話

  その世界に四季というものはなく、ひとびとは自分が深層で抱く感情によく似た季節をその身に纏っていました。
 春は心やさしいけれどそれはあまりにやさしすぎで、夏は明るいけれども照りつける太陽のように傲慢で、秋はいつも世界をうらさびしく思っているし、冬は全てに嫉妬していつも心を閉じていました。こういった性質を持っていたものですから、まったくもって彼らは分かり合いにくかったのです。
ですから、基本的に、自分とは違う季節を持った人とはかかわりを持ちませんでした。春と秋などはお互いのさびしさを埋められるので仲がよかったのですけれど、特に厚着をしなければならない冬が、一番ほかの季節と分かり合えないのでした。

 さて、あるところに夏を抱いた少年と冬を抱いた娘がいました。夏を抱く彼は冬を抱いたその子の手の冷たさを慮り、どうにかそれを温めてあげられないかと常々思っていました。冬を抱く子は、夏の明るさにいつも惹かれていました。冬は空気が透き通っているけれども、やはり日差しでさえも冷たいものだったからです。
 ふたりがお互いを想う気持ちは、時が遷ろうにつれてどんどんと深くなっていました。彼らの周囲は「相反する季節は分かり合えない」と何度も止めたのですが、ある日とうとう夏の子は、冬の子を連れて駆け落ちしてしまいました。

 夏と冬が二人きりになったのは初めてでした。暖かくも寒くもない森の中で、夏は汗を滲ませていましたし冬はがくがくと震えていました。
 夏の子は彼女をきっと救えると思っていました。自分が背負うこの太陽で、彼女の世界の雪を溶かせると信じていたのです。
 冬もまた、夏に救われることを望んでいました。彼女の世界はいつも暗く、寒く、雪のように静かで深い嫉妬にまみれていました。それを彼の太陽が溶かしてくれたら――と、と彼女は願いました。

 ――けれど。

 夏の子が手を伸ばし、冬の子を抱きしめた瞬間、彼らは気が付いてしまいました。
 冬の冷気は露出している少年の肌を凍らせ、夏の熱気はダッフルコートに包まれた娘の肌を焼きました。
 少年はその痛みで娘が抱く嫉妬の深さを知り、それを溶かせるほどの温度が自分にはないと気がつきました。また、娘は夏の匂いを鼻先に感じた刹那、きっとこれを覚えてしまえば、さらに自分の嫉妬は深くなってしまうだろうと理解しました。
 夏と冬――彼らの温度は違いすぎていたのです。

 ふたりは、相反する季節が分かり合えない理由を、あまりにも切ないかたちで知りました。
 性質の違いとは世界の違いにも等しく、その違いを埋められるだけのものを、幼い二人はまだ持っていなかったのです。

「帰ろう」と少年は言いました。その瞳は、夕立の如く涙に濡れていました。
「うん」と娘はうなずきました。その瞳は、冬の夜のようにまっくらでした。

 決して交わることなく、ただ押し黙って帰ってゆくふたりの背中はあまりにも小さく、憐れでした。


佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

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