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ディア マイ シスター

 ――お元気ですか。

突然の手紙に、君はきっと驚くだろうと思います。でも心配しないで。この手紙は、あの人には内緒で書いているから。


君が居なくなってから、もう1ヵ月が経ちました。
私には、それがまだ信じられません。君はずっと私の傍に居て、私もずっと君の傍に居たのに。こんなにもあっさりと、離れ離れになってしまうだなんて。

窓の外を見るたびに、君を思い出します。白いシーツにくるまるたびに、君の笑顔が瞼の裏に浮かびます。雨音が耳を突くたびに、君の優しい声が甦ります。

君と居た日々の記憶を反芻するたび、私は幸せだったなあと思えるのです。
だけど、ずっと引っかかっていることがあります。


君は、私と居て幸せでしたか?


思い返せば、君はいつも私の『身代わり』でした。
あいつが怒り狂い、私に暴力を振るおうとした時は、いつも君が私を助けてくれましたね。それなのに、私はずっと、君がなにも言わずに殴られている様を見ているだけでした。ごめんなさい。ごめんなさい。

私が辛い時には、いつも君が居てくれました。いつも君が、その苦しみを肩代わりしてくれました。
だからこそ私は、君を失った今が一番辛く思えます。
もうあいつに殴られることはないけれど、隣で悲しみを引き受けてくれる君はいない。そして、君が幸せだったかもわからない。

もう一度聞きます。君は、幸せでしたか?

何もかもを頼られ続け、文句も言わずに理不尽な暴力に耐えていて、それどころか私を慰めてさえくれて。

そして、私の勝手で、消してしまった。

……今さらになって思うんです。
私はあの人の言う事を聞く必要があったんでしょうか。君と無理やり離れる必要があったのでしょうか?

あの人に、君といる生活を長く続けていれば、私は壊れてしまうだろうと言われました。だけど私には、そうは思えなかった。
だって私にとって、君と居た日々はあんなにも幸せだったのだから。


……あのね。本当に勝手なことを言うと。
君の存在が私の救いでした。君が私を守ってくれている時は、私は痛くなかった。君が眠ってしまった後はもちろん身体が痛かったけれど、君と共有する痛みだから辛くなかった。

私は、君が大好きでした。今もその気持ちは、全く変わりません。
だから、君とずっと一緒に居たかった。君と直接会うことは出来なかったし、君を抱きしめることも、おやすみのキスをすることも出来なかったけれど、きっと私は君のことを誰よりも愛していました。
君との出会いは、何よりも素晴らしい運命でした。


ああ、巡回の足音が聞こえる。
この手紙が見つかったら、きっとあの人達に没収されてしまうのでしょう。そして私は、また飲みたくもない薬を飲まされて、君のことを忘れてゆく。

だから、今のうちに書きつけておきます。


誰よりもいとしい君。
私の中で、えいえんの眠りに就いた君。

せめて君の眠りが、安らかでありますように。

私がここを出て行く時に、君のことを忘れていませんように。


ごめんなさい。

ありがとう。


おやすみなさい。


君のえいえんの『墓標』より、愛を込めて――私の中で眠る『わたし』へ送ります。


///


ハチ様「恋人のランジェ」より。

佐々木 | 短編(二次) | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

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