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レイニイデイ



  きみと初めて会ったのは、土砂降りの最中の公園だったね。

 夏の積乱雲は時折物凄い雨を降らせる。その時の雨は「まるでバケツをひっくり返したような」という形容詞がぴったりなほどに強くて、わたしは思いがけず足止めを食らう事になった。いつもなら、急いでいるときは雨程度では足止めされないのだけれど、その時ばかりはどうしようもなかった。まあ急いでいるとは言え、誰と会うという用事でも無かったから、走るのを諦めて、公園の遊具――いったい、あれは何と呼称するのだろう?かくれんぼに子供がよく使う、かまくらのようなドームのようなそれだ――の中で、少し時間を置くことにした。そう決めたのは本当に偶然。きみに出会ったのは、その時だった。

 あの瞬間は、いまでも覚えている。私は、きみを見た瞬間に、

「……先客が居たんだ」

 そんなことを一言呟いて、隅に目を遣った。そこに居たのは、箱座りをしている薄汚れたサビ猫一匹。人が聞いたら笑いそうだけど、わたしはそれを視界に入れた瞬間に世界が変わった気がした。……そう、そのサビ猫が、きみだったんだよ。

 きみは不機嫌そうな瞳でわたしを見た。それからあくびをして、立ちあがって伸びをして、わたしの足もとへとのろのろ歩いてきた。わたしが中腰で固まっていると、きみは頭を脛になすりつけて、小さく鳴いた。だからわたしは、引き寄せられるようにしゃがみこんで、きみの頭をそっと撫でた。目を細めて喉を鳴らすきみに、きっとその時、わたしは恋をしたんだ。

 ねえ。……きみは知らないだろうけど、きみの頭は驚くほど暖かかったから、わたしは思わず泣きそうになったんだよ。

 きっと長く野良猫をやっていたんだろう。きみの毛は油で汚れていた。だからすぐに手はべとべとになったのだけれど、そんなことはどうでもよかった。わたしはひたすら、小さな頭を撫でて、遠い雷のように鳴る喉を撫でて、美しいラインを描く背中を撫でていた。きみは逃げもせずに、好き放題に動くわたしの手を受け容れていた。随分と人慣れしていたから、きみにも昔は、大切な「誰か」が居たのかもしれないね。もしかしたら、の話だけれど。

 確か十分ほどきみと触れあっていたけれど、雨は一向に止む気配を見せなかった。むしろ強まっていて、流れ込んでくる雨で地面は泥になりかけていた。どうしようかなあと少し考えて、ふと思いついたことを実行した。わたしは自分の着ていた上着を脱ぐと、地面にそのまま敷いたんだ。その上にきみを乗せれば、きみは汚れないと思ったから。それに、もう上着なんて要らないとその時は思っていたしね。

 だけどきみは嫌がって乗らず、代わりにわたしの目をじっと見ていた。しょうがないからわたしがその上に座ると、きみは当然のようにわたしの膝に乗った。
 きみの身体は熱いほどに暖かくて、重くて、確かな鼓動が伝わってきて――何よりも、愛おしく感じた。目頭が熱くなるような、そんな切なさを覚えた。それは忘れられない体温に似ていた。

 きみは、あの時わたしの事情を知っていたんだろうか。いや、人間同士のしがらみなんて知らないよね。でもなんとなく、きみは解っているような気がした。わたしがあの日、死のうとしていたってこと。そんなのきっと妄想なんだろうけど。

 わたしにはとても愛した人が居て、けれどその人はわたしを愛していなかった。ううん、最初はもしかしたら、愛してくれていたのかもしれない。だけどその愛情は、いつからか消えてしまっていた。いや、消えたんじゃない。わたしではない、別の女性に注がれていた。

 なにが悪かったんだろう、と何度考えただろうか。数えきれないほど思考を巡らせた。わたしの愛が重すぎたんだ、とか、わたしに魅力がなかったからだ、とか。こんなにも考えるなら、原因を叩きつけてから行ってほしかったとさえ思った。だって、あなたは何も言わずに居なくなってしまったから。

 いつも笑えと心がけてはいたけれど、本当のところわたしは限界だった。頭の中でぐるぐる回っているものが重すぎて、ゆるやかにわたしの思考を潰していた。
 だから、わたしは楽になろうとしていたんだ。あの土砂降りの日、高いところから飛び降りて、思考を潰す悪意を頭蓋骨からぶちまけてしまおうと思っていた。そうすればきっと、楽になれるだろうから、って。

誰からも好きになってもらえないわたしとも、誰も好きになってくれない世界とも、さよなら出来ると考えていた。

――だけどわたしはきみに出会って、きみの温もりに触れた。

 きみにとっては、餌をくれそうな人間にしか見えてなかったのかもしれない。あるいはけだるい雨の日の、暇つぶしの相手だったのかもしれない。
 真意はどうであれ、わたしは、きみが頭を擦り付けて膝に乗ってきたとき、初めて「愛された」と感じられたんだよ。この世界が、わたしに生きていてもいいんだと言ってくれたように思えた。きみの身体は、やさしい温もりで出来ていた。

 雨の中できみをひたすら撫でていた。きみは少し迷惑そうに目を細めて、それでもいつの間にか、わたしの膝の上で眠っていたね。
 きみの温もりはやさしくわたしの身体に沁み渡って、いつの間にか悪意を全部融かしてくれた。あれだけ死にたかったのに、きみと生きてみたいと思えた。

 時間にして、三十分くらいだった筈だ。雨はとても長く降り続いたように感じていたけれど、それでもいつの間にか止んでいた。公園に出来た水たまりに夏の陽射しが綺麗に反射して、まるで違う世界のようだった。

 その眩しさにか、きみはふと目を覚まして、わたしの膝から降りた。そのまま遊具の出口に向かって歩くと、振り返って「にゃあ」と鳴いた。行ってしまうんだと思って、わたしはぼうっと見つめていたけれど、きみがもう一度鳴いた時に、それが「一緒に来て」という意味だと悟った。立ちあがって遊具を出ると、きみはわたしの足もとにすり寄って、喉を鳴らして甘えた。

――そして、わたしは雨上がりの空の下を歩きだした。


 あれから、随分と時が経ったね。

 この数年間、想い出を省みることはしなかったけれど、あまりにも雨が強いから思い出してしまった。窓の外をちらりと見て、白く煙るような豪雨に溜息をひとつ吐く。いまだ、止まない。あの時によく似た雨だった。
 それでもあの時と違うのは、わたしの頭がさっぱりとしているということ。わたしが愛したこと、愛されなかったことを受け容れたということ。――わたしが、現在愛されているということ。

 「にゃあ」

 足元で声がした。見遣ると、きみの蜂蜜色の瞳がわたしを見つめていた。そのまま足に頭を擦り付けてくる。……膝の上に乗せろ、というお達し。
「はいはい」と返事をして、ベッドに座った。飛び乗って来るきみは、あの時よりも重い。きみもわたしと暮らしてから、初めて会った時よりも幸せになれたんだろうか?
 聞いてみたって返事はないけれど、きみの寝顔が安らかだから、そう信じることにしておく。

 あの土砂降りの中できみと出会ったのが偶然だったのか、それともそうではなかったのか。真意は神様と世界しか知らない。
 けれど、必然だったらいいと心から願った。

 雨は強い。夏の積乱雲は、時折物凄い雨を降らせる。あの時は世界に嫌われたのかと思ったけれど、違った。わたしはきっと、世界に愛されている。
 雨の音は屋内だとやさしく、ゆるやかな眠気が襲ってきた。きみは相変わらずすやすやと眠っている。わたしも、少し眠ろう。
 ベッドに上体を倒すと、すぐに暗闇が揺らいだ。

「おやすみなさい」

 返事の代わりに、尻尾が動いたのを感じた。
 


(20110806)


三題メーカー使いました↓
No.519 長谷川さんへ「偶然」「土砂降り」「真意」で明るいお話を書いてね。
http://shindanmaker.com/50113 #lovenobel

佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(1) | trackbacks(0) | - | - |

夏と冬の話

  その世界に四季というものはなく、ひとびとは自分が深層で抱く感情によく似た季節をその身に纏っていました。
 春は心やさしいけれどそれはあまりにやさしすぎで、夏は明るいけれども照りつける太陽のように傲慢で、秋はいつも世界をうらさびしく思っているし、冬は全てに嫉妬していつも心を閉じていました。こういった性質を持っていたものですから、まったくもって彼らは分かり合いにくかったのです。
ですから、基本的に、自分とは違う季節を持った人とはかかわりを持ちませんでした。春と秋などはお互いのさびしさを埋められるので仲がよかったのですけれど、特に厚着をしなければならない冬が、一番ほかの季節と分かり合えないのでした。

 さて、あるところに夏を抱いた少年と冬を抱いた娘がいました。夏を抱く彼は冬を抱いたその子の手の冷たさを慮り、どうにかそれを温めてあげられないかと常々思っていました。冬を抱く子は、夏の明るさにいつも惹かれていました。冬は空気が透き通っているけれども、やはり日差しでさえも冷たいものだったからです。
 ふたりがお互いを想う気持ちは、時が遷ろうにつれてどんどんと深くなっていました。彼らの周囲は「相反する季節は分かり合えない」と何度も止めたのですが、ある日とうとう夏の子は、冬の子を連れて駆け落ちしてしまいました。

 夏と冬が二人きりになったのは初めてでした。暖かくも寒くもない森の中で、夏は汗を滲ませていましたし冬はがくがくと震えていました。
 夏の子は彼女をきっと救えると思っていました。自分が背負うこの太陽で、彼女の世界の雪を溶かせると信じていたのです。
 冬もまた、夏に救われることを望んでいました。彼女の世界はいつも暗く、寒く、雪のように静かで深い嫉妬にまみれていました。それを彼の太陽が溶かしてくれたら――と、と彼女は願いました。

 ――けれど。

 夏の子が手を伸ばし、冬の子を抱きしめた瞬間、彼らは気が付いてしまいました。
 冬の冷気は露出している少年の肌を凍らせ、夏の熱気はダッフルコートに包まれた娘の肌を焼きました。
 少年はその痛みで娘が抱く嫉妬の深さを知り、それを溶かせるほどの温度が自分にはないと気がつきました。また、娘は夏の匂いを鼻先に感じた刹那、きっとこれを覚えてしまえば、さらに自分の嫉妬は深くなってしまうだろうと理解しました。
 夏と冬――彼らの温度は違いすぎていたのです。

 ふたりは、相反する季節が分かり合えない理由を、あまりにも切ないかたちで知りました。
 性質の違いとは世界の違いにも等しく、その違いを埋められるだけのものを、幼い二人はまだ持っていなかったのです。

「帰ろう」と少年は言いました。その瞳は、夕立の如く涙に濡れていました。
「うん」と娘はうなずきました。その瞳は、冬の夜のようにまっくらでした。

 決して交わることなく、ただ押し黙って帰ってゆくふたりの背中はあまりにも小さく、憐れでした。


佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

影武者

  大統領の乗った飛行機を撃墜しようとするテロ組織がいるとの情報が入った。なんでも自爆テロをするらしかった。もちろん止めなければならないが、テロ組織の居場所が掴めず、まだ行動が出来ない。
 大統領の側近は、万全を期すために、ふだん大統領が影武者として使っている男を呼び、言った。

「大統領の飛行機を撃墜しようとする人間がいるという情報が入った。そこで、君にはまた囮になってもらいたい。今回の仕事は危険なので、報酬は弾むし前払いにしよう。金銭ではなく現物でも構わない。この仕事を降りる以外なら何でも叶えよう。やってくれるね」

 それは依頼というよりも命令であった。影武者の男は少し考えてから答えた。

「ならば、私の影武者を用意して頂きたいと思います」
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

一行ネタ集

 mixiのボイスなどで投稿しているもののまとめ。


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「私達なんてどうせ人工衛星のように、すれ違っては離れていくだけ。生きた心にはきっと会えない。だったらこんな物終わってしまえばいい。私は誰とも交われない。愛してよ。寂しい、哀しい、寂しい、ねえ」

「宇宙空間ならすれ違うのも道理だけれど、僕らが居るのは地球だろ。扉さえ開けてくれれば、乗り込んで会えるのに」

「だから、ねえ、君の扉を開けてほしいんだ」


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「2歳児と同じさ、アレは」顎でしゃくり、彼は続ける。「かけられた毛布が暑いって、はね除けては怒られる子供のようなもんだ。自分が手厚く庇護されていることに気づいてないのさ。――最も、度を越した暑さに抗議出来ないってのも、随分可哀想だけどねえ」


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「まったく、馬鹿げてるよ」彼は頭を掻いた。「こんな遠回しにしか表現できない。愛の言葉って言うのは、よっぽど優秀な交通整理員だ」

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「アナタって可哀想ね。だってみんなアナタを道具だと思ってるんだもの」
「あたしって可哀想ね。だってあたしも自分を道具だと思ってるんだもの」


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「働かずに食う飯は美味いか?」
「母さんの料理なんだから美味いに決まってるだろ。母さんのこと馬鹿にしてんのか?」


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「どんなに苦しくてもどんなに辛くてもどんなに痛くても、あなたの笑顔があれば僕はきっと微笑みながら耐えて見せます。たとえこの世界に光が無いと思えるときでもあなたは僕の太陽なのです。あなたの笑顔は光であり、僕の中の神にも等しい存在なのです。だから、笑って。さあ、笑って。お願いします。お願いします。お願いします。どうか僕にその美しい笑顔を見せて下さい。ほら、笑ってください。僕の為に。僕だけの為に」

男は、女の生首を持ち上げると、その苦悶に歪められた唇の両端をナイフで裂いた。いびつな笑顔を形作られた生首を見て、男は心底幸せそうに微笑んだ。


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@エセフレーバーテキストモドキシリーズ (カタカナが多い)

わたしは月になりたいのです。「月がきれいですね」とあなたが誰かに愛を囁くときに、わたしを美しいと言ってくれるから。
《悲恋/Tragic Love》†


むかし、わたしの小さな才能の刃は鋭く光っていたものだ――しかし、小さすぎるからと使わずにいるうちに、いつの間にか錆び付いて、僅かな未来も切り開けなくなっていた。
《変容の嘆き/Changes grief》†


///

佐々木 | 小ネタ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

ディア マイ シスター

 ――お元気ですか。

突然の手紙に、君はきっと驚くだろうと思います。でも心配しないで。この手紙は、あの人には内緒で書いているから。


君が居なくなってから、もう1ヵ月が経ちました。
私には、それがまだ信じられません。君はずっと私の傍に居て、私もずっと君の傍に居たのに。こんなにもあっさりと、離れ離れになってしまうだなんて。

窓の外を見るたびに、君を思い出します。白いシーツにくるまるたびに、君の笑顔が瞼の裏に浮かびます。雨音が耳を突くたびに、君の優しい声が甦ります。

君と居た日々の記憶を反芻するたび、私は幸せだったなあと思えるのです。
だけど、ずっと引っかかっていることがあります。


君は、私と居て幸せでしたか?


思い返せば、君はいつも私の『身代わり』でした。
あいつが怒り狂い、私に暴力を振るおうとした時は、いつも君が私を助けてくれましたね。それなのに、私はずっと、君がなにも言わずに殴られている様を見ているだけでした。ごめんなさい。ごめんなさい。

私が辛い時には、いつも君が居てくれました。いつも君が、その苦しみを肩代わりしてくれました。
だからこそ私は、君を失った今が一番辛く思えます。
もうあいつに殴られることはないけれど、隣で悲しみを引き受けてくれる君はいない。そして、君が幸せだったかもわからない。

もう一度聞きます。君は、幸せでしたか?

何もかもを頼られ続け、文句も言わずに理不尽な暴力に耐えていて、それどころか私を慰めてさえくれて。

そして、私の勝手で、消してしまった。

……今さらになって思うんです。
私はあの人の言う事を聞く必要があったんでしょうか。君と無理やり離れる必要があったのでしょうか?

あの人に、君といる生活を長く続けていれば、私は壊れてしまうだろうと言われました。だけど私には、そうは思えなかった。
だって私にとって、君と居た日々はあんなにも幸せだったのだから。


……あのね。本当に勝手なことを言うと。
君の存在が私の救いでした。君が私を守ってくれている時は、私は痛くなかった。君が眠ってしまった後はもちろん身体が痛かったけれど、君と共有する痛みだから辛くなかった。

私は、君が大好きでした。今もその気持ちは、全く変わりません。
だから、君とずっと一緒に居たかった。君と直接会うことは出来なかったし、君を抱きしめることも、おやすみのキスをすることも出来なかったけれど、きっと私は君のことを誰よりも愛していました。
君との出会いは、何よりも素晴らしい運命でした。


ああ、巡回の足音が聞こえる。
この手紙が見つかったら、きっとあの人達に没収されてしまうのでしょう。そして私は、また飲みたくもない薬を飲まされて、君のことを忘れてゆく。

だから、今のうちに書きつけておきます。


誰よりもいとしい君。
私の中で、えいえんの眠りに就いた君。

せめて君の眠りが、安らかでありますように。

私がここを出て行く時に、君のことを忘れていませんように。


ごめんなさい。

ありがとう。


おやすみなさい。


君のえいえんの『墓標』より、愛を込めて――私の中で眠る『わたし』へ送ります。


///


ハチ様「恋人のランジェ」より。

佐々木 | 短編(二次) | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

ぱん

 A「あ、支払いは任せてよ」

B「わあ、なにそれ。お前の財布パンなの?」

「ああ、これね。面白いだろ? 最近買ったんだ。意外とクオリティ高くて、合コンとかでもわりと好評でさ」

C「ああ、面白い面白い。あ、そういや俺もネタ財布持ってるぜ。ほら、これこれ」

B「うわぁ……パンツってお前」

C「この間買ったエロ雑誌についてた」

A「世も末だな」

B「そんなもん持ち歩くなよ。馬鹿なの、君は」

C「ははは。まあ俺はこういうキャラだからな。そういえば、お前の財布はなんなんだ? 定石通りなら、お前もネタ財布だろ」

B「ああ、俺。俺はね、えっと、とりあえず」

A「うわ、なにそれ、本物の銃みたいだな」

C「それに金なんて入るのか? って、なんで構えてるんだ。おいおい、撃鉄まで下ろせるとか本物みたいだな」

B「まあ、俺の財布はしいて言えば君達かな」

A「えっ、ちょっ」

パンッ

佐々木 | 小ネタ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

純愛。最愛の人へ。

 「僕は君が好きでした。本当に大好きでした。笑った時に頬に浮かぶ笑窪も、白魚のような美しい指も清流のように流れる髪も、そのどれもを愛していました。勿論内面だってきちんと見ていましたよ。帰り途、偶然見つけた子猫に1時間以上もかまけていた愛らしさ、寝る前は大事なぬいぐるみに話しかける子供らしさ。だけど、その奔放かつ純粋な心の裏側に数えきれない苦しみがあることも知っていました。陰のある君の伏し目がちな笑顔が、僕は何よりも好きでした。3年間、君だけのことを思い続けていました。君だけのことを見続けていました。どんな手を使ってでも、いつかは僕だけのものにしたかった。愛しています。愛しています。君は僕の世界でした」

ギシッ。

「だけど、君にはもうすでに、誰よりも愛している人が居たのですね。自分を犠牲にしてまでも、守りたいと思える人が。全てを捧げても共に歩みたいと思える人が。僕は、僕は全て知っています。君が彼を愛し、手を繋ぎ、抱きしめ、キスしたことを。勿論それが悪い事なわけはありません。僕は何よりも君を愛しているのだから、君の幸せを祝福しなければなりません。世界の幸せは、僕の幸せなのだから。そうです。そうです。そうなのです。君のことを、僕は、愛してるのですから」

ギシッ。ギシッ。

「……。けれど、僕には耐えられなかった。君が誰かの物になってしまうことが。僕の傍から離れて行ってしまうだなんて、考えたくもなかった。僕は悩みました。何度も、君の恋人を殺そうとしました。ああ、君を殺すという選択肢は勿論ありませんでしたから安心してください。だって君は、僕の世界なんですから。君が死んでは、僕の世界も滅びてしまいます。まあ、それは置いておいて。とにかく僕は君の恋人が憎かった。憎くて憎くて仕方がなかった。だけど、気づいたんです」

ギシッ。ギシッ。ギシッ。

「きっと、僕は」

ガタッ。コツ、コツ、コツ。

「僕は、夢を見ていたんです。長い長い夢を」

トンッ。

「君への思いは、僕にとってとても美しい夢でした。君を本当に好きだったとき、君と話せて、君を笑わせることが出来てとても幸せでした。僕は、とてもきれいな夢を見ていたんです。だけど、夢にはいつか終わりが来る。僕も、もう夢から目覚めなければ」

ゴトッ。

「結婚式は、明日でしたか。おめでとうございます。僕はきっと泣いてしまうからいけないけれど、いや、そもそも君が僕を招待してくれるかも怪しいのですが、とにかく僕は行けないので先に祝辞を述べさせていただきます」

ポタッ、ポタッ。

「君が次に目を覚ます時、ここであったことは忘れているでしょう。もし忘れられなくても、愛しい人と歩む時がそれを忘れさせてくれる筈です。だから、今だけは、今だけは僕を見ていてください。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします」

ギシッ。

「……。ああ、ありがとう、ありがとう。ありがとうございます。本当に君を好きになれてよかった。誰よりも、何よりも。君のことが、大好きでした」

ギィ。

「さようなら」


ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ

「ああああああああ愛していたんだああああああああ誰もよりも愛していたんだああああああああああ僕はっ僕はああああああああああああああああああああ」

ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴトッバシャッ
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

はめつのねがい

 「あら?こんな夜遅くにベランダに出て……何をしてたの?」

「あっ、おかあさん!あのね、おほしさまにね、おねがいしてたの!」

「そうなの?何をお願いしたの?」

「ないしょ!えへへっ」

「あらあら、気になるわねえ」


おかあさん ぼくは ぼくはね。

そのとき せかいの「はめつ」 を ねがったんだ。





ちっちゃいころから、ぼくはずっとイジメられていた。
なんでだろう。イヤなことをイヤ!って言えないのがいけなかったのかな?
ぼくの足がおそいのがいけなかったのかな。

みんなぼくのことを叩くし、みんなぼくのことを「ジャマだ」って言う。わざとぶつかられて、ぼくのせいで転んだって言いつけられて先生におこられたこともある。

ぼくはそこにいるだけだったのに。それはわるいことだったのかなあ。


4年生になっても、ぼくをイジメるやつらはいなくならなかった。
いや、ふえちゃったんだ。叩かれたりはしなかったけれど、それを見ないふりをする人ばかりになっちゃった。
ぼくをムシする人と、ぼくを叩く人のどちらかしかいなくなっちゃったんだ。

でも、おかあさんやおとうさんにはそれが言えなかった。
だっておかあさんとおとうさんは、ぼくのことをおこったりしない。
ううん、もちろん悪いことをしたらおこるけれど、クラスのみんなみたいになにもしてないのにおこったりはしなかった。
おかあさんとおとうさんは、ぼくのことをたくさん心配しているから、これ以上心配させたくなかったんだ。


だから、ぼくはがんばったんだよ。


さとるくんにころばされて服がどろんこになっちゃったときは、「みんなと遊んでて転んじゃったんだ」って言った。
おかあさんは「楽しいのはわかるけど、気をつけなさいね」ってやさしく言ってから、服をあらってくれた。

せいやくんにたたかれてアザができたときは、「ゆうすけくんとケンカしたんだ」って言った。
おとうさんは「仲直りできたのか?」って聞いてきて、ぼくが「うん」って言ったら「よかったな」ってわらって頭をなでてくれた。
おとうさん、最近ずっとつかれてたから、わらってるのを見るのはひさしぶりだったんだ。だから、ぼくはすごくうれしかった。


でも、でもね。

ぼくは、それがくるしかった。
毎日できるアザと、毎日でてくる涙にだれもきづいてくれないこと。

それが、とてもくるしかった。

ぼくは、ともだちがほしかったんだ。
ぼくのことをまもってくれるともだちが。

ぼくがないているのに、きづいてくれるともだちが。


だけど、みんなはぼくのことにきがついてくれない。だから、ぼくはともだちをつくった。
え?だれかって。あのね、わらわないでね。


ぼくのともだちは、おほしさまなんだ。





「きょうはあったかいなあ」

毎日、ぼくはねる前にベランダからおそらを見る。 まっくろのそらにピカピカひかっているおほしさまは、みんなぼくのともだち。
なんでって?おかあさんがね、言ってたんだ。「お星様はね、すごくとおくにいるの。だからみんなひとりぼっちなのよ」って。だけど、みんなぼくたちのことを見ているんだって。
だから、さみしくないようにぼくがともだちになってあげるんだ!

……それに、とおくにいるなら、おほしさまがぼくのことをきらいでもせいやくんやさとるくんたちみたいに、叩きにこれないから。

「あ、ながれぼしだ」

急に、まっしろな線がキラっとひかった。
最近、ながれぼしをいっぱい見るんだ。みんな、ぼくにあいにきてくれてるのかな。

おかあさんに言われたとおり、がんばって3回おねがいごとを言おうとするんだけど、ぼくの口じゃまにあわない。
だから、ぼくは最近ながれぼしにこういうんだ。

「ぼくにあいにきて」

って。

だって、あいにきてくれたらいっしょにあそべるし、なによりいそいで言わなくても、おねがいかなえてくれるもんね。

……ぼくってズルいのかな?





いつもなら、ぼくのおねがいごとはかなわないで、そのままねむっちゃうんだ。
でも、この日はちがった。


ぼくのねがいがはじめてかなった日。

ぼくのせかいがこわれてしまった日。


この日、ぼくはながれぼしに、いつもみたいに「ぼくにあいにきて」っておねがいしたんだ。
なのに、いつもならそのままきえちゃうながれぼしは、すごく近くにふってきた。
もし、あれがぶつかっちゃったら、ちきゅうはどうなっちゃうんだろう?
そう思ってこわくなったぼくの目のまえは、きゅうにまっしろになった。
びっくりして目をつぶって、そしてつぎに目をあけたら、なんとぼくのまえに女の子が立っていた。
女の子は、にっこりわらってこう言った。

「……あいにきたよ」
「えっ」

ぼくはすごくびっくりしたんだ。だけど、どんどんうれしくなった。
きっとこの子は、おほしさまなんだ。ぼくに、あいにきてくれたんだ。


ぼくの、ともだちなんだ。


「きみはおほしさまなの?」
「そうだよ」
「ほんとに?」
「うん」

女の子は、またにっこりわらった。かわいくって、ちょっとドキドキした。
でも、ほんとうにおほしさまなのかな?まだわからないや。

だからそう言ったら、なんと女の子はきゅうにそらに浮かんだんだ!

「わっ」
「うふふふふ」

女の子はふよふよと浮かんで、電線のうえをあるいて、またぼくのとなりにおりてきた。
ぼくははくしゅした。女の子ははずかしそうにわらってから、ぼくにきいた。

「ねえ」
「?」
「ぼく、おれ、うーん……わたし?わたしはね、きみの願いを叶えにきたんだ」
「ほんとう!?」
「きみの願いはなぁに?」
「うんとね……」

きゅうにそんなことを言われると、わからなくなっちゃう。
考えながら、ベランダからぼくの部屋のなかを見たら、きょう見てたビデオが見えた。
ゴジラのビデオ。かっこよくてだいすきなんだ!

……あ、そうだ。

「……かいじゅう!」
「いいよ」

おおきい声で言うと、女の子はわらっておかあさんゆびをピンとのばした。
そしたら、ゆびの先がピカッとひかって、おっきなゴジラが出てきたんだ!

「わああ!すごーい!」
「えへへ……うごかす?」
「うん!」

女の子がゆびをうごかす。それといっしょに、ゴジラがうごきだした。
あるくとじめんがゆれる。ぼくはうれしくっておどりだしたかった。

「もっとかいじゅう!」
「いいよ」

女の子がピンとゆびをのばす。そしたら、つぎはモスラがでてきた。
モスラもすっごくかっこいい!だから、まわりのおうちがこわれていくのは見ないふりをした。

「もっともっとつよーいの!」
「いいよ。でも」
「?」

こうふんしたぼくは、かいじゅうたちの声にまけないくらいおっきな声で言った。
そしたら、それまでずっとわらってた女の子のかおが、ちょっとだけこわくなった。

「それ以上はきみが壊れるよ」
「え?」

女の子の手が、ぼくのほっぺをさわった。

「ねえ、ホントに」
「……ひっ」

女の子のかおが、すごくちかかった。

「い い の ?」

女の子がピンとゆびをのばしたら、ラドンが出てきた。
3びきのかいじゅうは、ぼくのまちをぜんぶこわしていった。

ぼくは、こわくて目のまえがまっくらになった。





「……おきた?」

きがついたら、ぼくはベランダで女の子のひざをまくらにしてねていた。
だけど、まだそらはまっくらだったからそんなに時間はたってないみたい。

まちは、さっきまでとおなじでしずかにねむっていた。
かいじゅうは、ぜんぶいなくなっていた。こわれたおうちも、ぜんぶさっきとおなじ。

キョロキョロしていると、女の子はおかあさんみたいなかおでわらった。

「だいじょうぶ?」
「……うん」
「ね、きみがこわれそうになっちゃったでしょう」
「こわかった……」

なみだがでてきた。ほんとうに、さっきはこわかったんだ。
そしたら、女の子がぼくのことをギュッとだきしめてくれた。
あったかくて、おほしさまだっておもえなかった。

「よしよし」
「ごめんなさい……」
「いいんだよ。わたしは、きみの願いはなんでもかなえるよ」
「どうして、そこまでしてくれるの?」

ふしぎになって、きいてみた。
なんで女の子は、ぼくのことならなんでもきいてくれるんだろう?
でも女の子は、ぼくがそうきいたことのほうがふしぎだったみたい。おっきな目をパチクリさせて、たのしそうに言った。

「だって、きみはわたしの、さいしょでさいごの『トモダチ』だもの!」
「そうおもってくれるの!?」
「うん!だってねえ……わたしは、ずっときみのことを探していたんだよ」
「そうなの?」

女の子は、ちょっとだけさみしそうなかおをした。

「わたしはずっとひとりぼっちだったんだよ。何千年も、何百年も」
「うん……」
「とおくて暗ぁいところにずーっといたの」
「うん」
「さみしかったんだ。だけど、ね」

女の子が、ぼくのほっぺをやさしくつねる。

「きみは、わたしのことをトモダチだとおもってくれた。きみの願いはずっときいていたよ。だから、毎日毎日、すこしずつこの恒星に近寄っていったんだ。それで、今日やっときみにあいに来れた……うれしい」
「ぼくもうれしい!」

女の子の手をギュッとにぎった。ぼくは、いままででいちばんうれしかった!
ぼくがまいにち「あいにきて」ってねがったのはムダじゃなかったんだ。
ぼくのねがいごとは、かなってたんだ!

ぼくはわらった。女の子もわらった。

そして、女の子はぼくにきいたんだ。
ぼくは、それにこたえなければよかったのかな。そうしたら、ぼくのせかいはこわれちゃわなかったんだろう。

でも、ぼくはこたえたんだ。

「ねえ」
「なあに?」
「おしえてよ。さっきのかいじゅうは、きみのほんとうの願いじゃないんでしょう?」
「……うん」
「きみは、ほんとはどうしたいの?」
「……」
「ほんとは、なにがしたかったの?」
「……」
「きみが、こころから想うほんとうの願いは な ぁ に ?」

女の子が、またぼくのほっぺを手ではさんだ。女の子のまっくろな目は、うちゅうみたいだった。


……ぼくはなにがしたかったんだろう。


ゲームがほしかったんだっけ?
テストで100点をとりたかったんだっけ?
足がはやくなりたかったんだっけ?
イヤなことに、イヤ!って言えるようになりたかったんだっけ?

ぼくがしたかったのは……。

そうだ、ぼくがしたかったのは。


ぼくをイジメるやつらを、みんな消しちゃいたかったんだ。


「……ぼくは」
「うん」
「ぼくは……ずっと、ぼくをまもってくれるトモダチがほしかったんだ……」
「そうなの?」
「うん……。せいやくんも、さとるくんも、みないフリをするみんなも、きづいてくれないおとうさんとおかあさんも、みんなだいきらい」
「そっか。つらかったんだね。だいじょうぶ、わたしがきみの、トモダチだよ。でも、それだけでいいの?」

なきそうになりながら言ったら、女の子はぼくをまたギュッとだきしめてくれた。あったかくて、うれしかった。
だから、ぼくにはそれだけでよかったんだ。あんなこと、いわなければよかったんだ。

なのに、女の子がぼくをギュッてしてくれたとき、さとるくんにつねられたアザがすごくいたかった。
それでぼくは、言っちゃったんだ。

「ぼくは、ぼくをイジメるやつらを、ぼくをムシするやつらを、ぼくにきづいてくれないやつらを……みんな消しちゃいたいんだ……」
「そっか……」

ぼくの目からポロポロなみだが落ちた。
かわりに、女の子はすごくうれしそうだった。ぼくの目をじっと見て、にっこりわらって、言ったんだ。

「い い よ」

ちっちゃい声だった。
だけど、すっごくおおきくきこえた。





それからは、あんまりおぼえてない。

女の子のスカートのしたから、ふしぎなものが生えてきた。ポケモンの……フシギダネとかの「ツル」ににてた。

それから、女の子はふよふようかんだ。

「きゃはははははははははははははははははははははははははは!!!!」

わらってた。ぼくのことをだっこして、女の子はずっとわらってた。

「きゃははははははははははあははははははははははははははは!!!!」

女の子がゆびをピンとのばした。かいじゅうがでてきた。

「あははははははははははははははははははははははははははははははは」

女の子がゆびをピンとのばした。すごいカミナリが落ちた。雨がざあざあふってきたけど、ぼくたちはちっともぬれなかった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

こんなにずっとわらってて、つかれないのかなっておもった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

したのほうに、おかあさんとおとうさんがみえた。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

ヒュンっておおきな石が落ちてきて、おかあさんのあたまがわれた。のうみそがみえた。おかあさんののうみそはまっしろだ。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

こんらんしたけいさつのひとに叩かれて、おとうさんのアゴがなくなった。べろがみえた。まっかだった。すごくしょっぱいんだろうなあっておもった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

おそらはまっくらだった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

女の子のはだはまっしろだった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

ちきゅうはまっかになってた。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

せかいは、どんどんこわれていった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

せかいは、どんどんこわれていった。

「きゃはははははははははははははははははははははははははははははは」

ぼくは、ずっとないていた。





おかあさん、おとうさん、ごめんね。

ぼくがあんなおねがいごとをしなかったらよかったんだ。

ぼくが、ちゃんとイジメられてるっていえばよかったんだ。

せいやくんも、さとるくんも。

ぼくはほんとうは、なかよくしたかったんだよ。

だってふたりとも、ぼくをイジメてないときは、すごくおもしろかったから。

ぼくをムシしてたクラスの子だって、しかたなかったんだ。

ぼくががまんしてればよかったんだ。

ぼくが。

ぼくが。

ぼくが……。





「ねえ」

「?」

「ぼくのおねがいごと、もうひとつかなえて」

「なぁに?」

「ぼくを、もう、ゆるしてください」

女の子は、ずっとぼくのことをだっこしている。
ぼくは、なきそうな声でいった。女の子はこたえた。


「 だ め 」



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生腺侏諭屬呂瓩弔里佑い」より。
佐々木 | 短編(二次) | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

真夏の夜

 「     」って。

それを言われたときに、生まれてきたことをただ後悔して後悔して後悔して。ああ、何も考えたくない。ただ視界は真っ白で、頭の中はキィンと鳴る。さびしさは鳴る、と語った作家は誰だったか。いや、恐らくこれはそういう音ではないのだろう。きっとさびしさは、もう少し綺麗な音だから。

不意にガタンガタンと何かが迫る音。耳鳴りを阻害する。時速何キロで走っているのだろうか。その鉄の塊は眩しくきらめきながらゆっくりと走る。二十メートル、十メートル、数メートル。鉄塊が迫るにつれ、私はそれが放つ光に惹かれていく。夏の虫のようだと自嘲して、あれに巻き込まれたら痛いだろうかと考えた。そう思ったせつな、鼻先を鉄塊が過ぎた。飛び込み損ねたことを悔やむと共に、やはり虫は光に近づきすぎたとて死ねないのだと識った。

踏みきりをすぎ坂を越え、気づけば頭の中の音は消えていた。鉄塊が過ぎるとき、音も共に連れ去ったのだろうか。それとも、それを流したのは都会の夏にしては涼しい夜風だろうか。いづれにせよ、私の中で鳴った衝動は影をひそめた。

歯車は回り、針は時を刻む。この冷たい風が吹き終わるときまでは、世界は何を気にすることもなく巡るんだろう。でもそれでいい。事を知りすぎてはきっと眠れないから。知らない、気づかない、気にしない。その方がずっと、幸せだ。

ぐらり。目眩。世界が回る。速くなった鼓動が生を刻む。痛いほど。背中が、熱い?

振り向く。夜にきらめく銀。熱い背中。黒に紛れてそれは消える。何が起きたか理解しようとして、やめた。そう、さっきも言ったけれど。



知りすぎては、きっと眠れないから。



(暗溶)
佐々木 | 短編 | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

『歯車に拠る世界再生計画』

 『歯車に拠る世界再生計画』


今から2世紀後の未来。世界は滅んだ。終わった筈の戦争が歪みを生み、とある一国を暴走させたことが原因だった。
僅かに残った人々は、その殆どが世界の惨状に発狂して死んだ。
その中で、唯一死を願わなかった少女と少年は、世界が滅びた理由を自分達が持つ「心」、そしてそれが積み重ねてきた歴史のせいだと考えた。憎しみの歴史が、全てを滅ぼしたと結論づけたのである。

荒廃した世界を眺めた二人は、考えあぐねた末に一つの決定を下した。
歴史を積み重ねないように、行くあてのない憎しみを抱かないように。
心を捨て、世界を再生させよう。もう二度と同じ過ちを繰り返さない為に。
それが過ちであると、幼い二人は気付けなかった。

そしてその更に未来。
ようやく、世界の文明レベルが旧21世紀まで取り戻された頃。


――人々は歯車だった。
世界は、歯車に拠って動いている。自分の過去を取り戻し、未来に繋げる為に。


旧21世紀を模した世界。歯車達は依然として働き続ける。
娯楽も取り戻されていたが、形骸化していた。それを楽しむ心がないのだから当然だ。
心が失われたことで、彼らからは個性も失われた。
唯一残った個性と呼べる概念は、『他者よりどれだけ世界の役に立てるのか』――それだけだ。

人々は疑わない。心をなくしたことが間違いだという事を。歴史がない世界は張りぼて同然だ。見た目だけ取り戻したところで、何の意味もない。

……いや、極稀に心を持つ歯車も居た。その存在意義と働く理由について、考え出す者が居た。だけど、彼らはすぐに『矯正』された。
世界が元通りになるまでは、心など要らないから。
せっかくここまで取り戻したのだ。また壊されては堪ったものじゃない。
それもまた、形骸化した概念である。だって、そう考える事すら、彼らは出来ないのだから。

そんな世界の中。

A-028と呼称される少女が居た。彼女は純粋培養の歯車であり、自分の存在意義を疑ったことなど一度もない。

彼女と共に働く仲間が居た。Y-223と呼ばれた彼は、矯正を経験した数少ない存在だった。矯正の後遺症でぼんやりする思考の中で、彼はいつも思っている。自分達の存在は間違いなのだと。これで救われる筈がないのだと。心を知ってしまった彼は、しかしその闇しか知らなかった。
彼は本能的な自殺志願者だった。だが、それを少女以外に話す事はない。

少女の夢の中にはいつも少年が居た。扉越しに話しかけてくるだけの存在。彼はいつも不思議そうだった。少女に心がないことを憐れんでいる節もある。彼はいつも、少女に『心』の抱く光を説いた。自分が自分であることの幸福を、生きることの素晴らしさを説いた。だけど彼は、少女が目覚める直前に何故かいつも謝った。

現実と夢。二つの世界で、全く別のことを言う二人。
少女は思う。どちらの言っていることが正しいのだろうと。少女は悩む。幸福とはなんだろうと。

少女には、解らない。
世界は、未だ滅んだままだ。


///


クラスで書いた劇のネタ出し。難しすぎてボツ。いつか短編にリメイクしたいです。
佐々木 | 小ネタ | 00:00 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |
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